聚義録

毎月第1・3水曜日更新

『水滸伝』本文校勘の意義:小松謙『水滸傳と金瓶梅の研究』

小松謙氏は『水滸伝』テキストの校勘の意義について次のように述べます。 『水滸傳』の諸本間に多くの本文異同があることは周知の通りである。いわゆる繁本と簡本が大きく本文を異にすることはいうに及ばないが、繁本・簡本同士の間にあってもかなりの異同が…

金文京『三国志演義の世界【増補版】』

今回は『水滸伝』ではなく『三国志演義』に関する書籍を紹介します。金文京『三国志演義の世界【増補版】』(東方書店、2010)は白話小説を研究する者の必読書(私はそう教わりましたし、私もそう思います)で、私は学部生時代に本書からさまざまな研究手法…

盛巽昌補証『水滸伝補証本(増訂版)』

今回は盛巽昌補証『水滸伝補証本(増訂版)』(上海書店出版社、2019)という書籍を紹介します。 本書の内容を簡潔に言えば、『水滸伝』の内容について注釈を付け、その典故や関連事項を解説したものです。例えば、第一回の冒頭にはこのように注釈が付けられ…

あけましておめでとうございます

新年あけましておめでとうございます。皆様いかがお過ごしでしょうか。 昨年に聚義録を開設してから10ヶ月ほど経ちました。当初はどれだけ読んでいただけるものか思っておりましたが、想像以上に多くの方々にお読みいただき、そのことが大変励みになりました…

懐林「批評水滸伝述語」を読む

以前、李卓吾「忠義水滸伝叙」を読みましたが、容与堂本(百回本)には李卓吾の序文の他に、懐林の署名が附せられた「批評水滸伝述語」・「梁山泊一百単八人優劣」・「水滸伝一百回文字優劣」・「又論水滸伝文字」が収録されています。今回はそれらの中で、…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(9)

さて今回も「読法」を読んでいきましょう。 【55】 有綿針泥刺法。如花榮要宋江開枷、宋江不肯、又晁蓋番番要下山、宋江番番勸住、至最後一次便不勸是也。筆墨外、便有利刃直戳進來。 〔訳〕 綿針泥刺法というものがある。例えば、花栄が宋江に枷を外させ…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(8)

長らく更新が途絶えていた「金聖嘆「読法」を読む」シリーズですが、今回からまた読み進めていきます。「文法」の解釈は難解な部分も多いですが、適宜先行研究を参照しつつ、少しずつ読んでいけたらと思います。 【52】 有夾叙法。謂急切裏兩箇人一齊說話…

大木康『中国明末のメディア革命』を読む(2)

前回に引き続き、大木康『中国明末のメディア革命』(刀水書房、2009)の第1章「中国書籍史における明末」を読んでいきます。今回は明代の話に入ります。 ●明代、嘉靖・万暦期の大変化(pp.28-31) 大木氏は、漢籍の総合目録である楊縄信『中国版刻綜録』を…

大木康『中国明末のメディア革命』を読む(1)

今回からは、大木康『中国明末のメディア革命 ―庶民が本を読む―』(刀水書房、2009)の中から、第1章「中国書籍史における明末」を読んでいきたいと思います。ちなみに、本書の前段階的な書籍として『明末江南の出版文化』(研文出版、2004)がありますので…

小松謙『詳注全訳水滸伝』

今年8月、汲古書院から、小松謙氏の『詳注全訳水滸伝』第1巻が刊行されました。購入予約していたために刊行された翌日には手元に届き、開いた瞬間、「あぁ、これはとんでもない大著が出たぞ」と確信しました。そこで今回は本書の特徴を紹介した上で、僭越な…

周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』(3)

今回も周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』第十章「李贄と金人瑞の小説理論」(pp.419-433)の続きを読み進めていきます。前回は李卓吾の小説理論について論じた部分を読みましたが、今回は金聖嘆のパートに移ります。今回は、過去の記事で触れた内容…

周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』(2)

さて、今回は前々回の記事の続きで、周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』を読んでいきたいと思います。第十章の「李贄と金人瑞の小説理論」(pp.419-433)を読み進めていきます。李贄とは李卓吾、金人瑞とは金聖嘆のことです。本書のこの章は李卓吾と…

【お知らせ】更新頻度を変更します

皆さんこんにちは。ぴこです。本日はお知らせしたいことがあります。 2021年3月に開設して5ヶ月、毎週水曜日に更新を続けていたこの「聚義録」ですが、次回から更新頻度を変更いたします。 記事を書くこと自体はとても楽しく、想定以上の多くの方に読んでい…

周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』(1)

さて、今回からは周勛初著/高津孝訳『中国古典文学批評史』(勉誠出版、2007)を読んでいきたいと思います。本書は書名の通り、中国文学批評史を概説したもので、高津氏が原著の周勛初『中国文学批評小史』を翻訳したものです。本書は版元品切れになってお…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(7)

引き続き「読法」を読み進めてまいりましょう。今回から読む「文法」についての段落は、「読法」の真骨頂と言っても過言ではありません。今回読むのは第49〜51段です。 【49】 吾最恨人家子弟、凡遇讀書、都不理會文字、只記得若干事蹟、便算讀過一部…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(6)

突然ですが、私が「読法」の翻訳にチャレンジしてみようと思ったきっかけをお話しします(※以下、自分語りとなります、ご容赦ください)。 私が本格的に「読法」を読んでいこうと思ったのは、博士課程進学のための院試を直前に控えた2018年の冬に、以前本ブ…

歴代の『水滸伝』関連資料を調べるには

今回は中国における歴代の『水滸伝』関連資料を集めた本をご紹介します。今から紹介する本には『水滸伝』の各版本に関する資料はもちろんのこと、物語に登場する人物の史実の記録や、小説批評、戯曲や続書など、『水滸伝』に関するあらゆる記述・著作が収め…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(5)

前回に引き続き、金聖嘆「読第五才子書法」を読み進めていきます。今回はいつもに比べて少ないですが、第31〜35段を読んでいきたいと思います。 【31】 林冲自然是上上人物、寫得只是太狠。看他算得到、熬得住、把得牢、做得徹、都使人怕。這般人在世…

中国の『水滸伝』研究史を知るには

今まで私が紹介した本は、日本で出版された『水滸伝』関連図書ばかりでした。しかし当たり前ですが『水滸伝』研究が最も盛んな国は中国です。『水滸伝』を本格的に研究したいという方にとっては、日本国内の研究動向を追うだけでは不十分なのです。CNKIとい…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(4)

今回も金聖嘆の「読法」の続きを読んでいきましょう。今回は第22〜30段です。今回から内容は大きく変わり、好漢たちへの評価について述べています。金聖嘆は梁山泊の好漢たち(全員ではありませんが)を「上上」・「上中」・「中上」・「中下」・「下下…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(3)

前回に引き続き金聖嘆「読第五才子書法」を読み進めていきましょう。今回は第12〜21段です。 【12】 三箇「石碣」字、是一部『水滸傳』大段落。 〔訳〕三つの「石碣」の字は、『水滸伝』の重大な段落である。 「石碣」とは石碑のことです。金聖嘆本で…

『水滸伝』人物事典を楽しむ

『水滸伝』の魅力の一つとして登場人物の豊かさが挙げられます。梁山泊の好漢だけでなく、奸臣や悪女など魅力的な個性を持った人物が沢山登場します。でも、登場人物の多さ、人物関係の複雑さが時に作品を読むハードルを上げてしまいかねないというのも事実…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(2)

前回に引き続き金聖嘆「読法」を読んでいきましょう。今回は『水滸伝』の文章の特徴について述べた部分のうち、第7〜11段を読んでいきたいと思います。 金聖嘆は度々『水滸伝』を『史記』と比較したり、『史記』に擬えたりしています。今回読む部分からも…

金聖嘆「読第五才子書法」を読む(1)

明末清初の文人である金聖嘆は百二十回本『水滸伝』の本文を改変し、大量の評語を附した『第五才子書施耐庵水滸伝』(通称「金聖嘆本」)を編纂しました。その冒頭には「序一」・「序二」・「序三」・「宋史綱」・「宋史目」といった幾つもの文章が置かれて…

平岡龍城訳『標註訓譯水滸傳』

今回は、大正期に刊行された『水滸伝』の訳本について紹介します。大正三年から五年にかけて『標註訓譯水滸傳』(以下、『標註』と略称)という訳本が出版されました。訳注者は平岡龍城という人物です。写真のような線装本で、全15冊あります。ちなみに底本…

李卓吾「忠義水滸伝叙」を読む

今回は『水滸伝』百回本の代表的な版本である容与堂本の序文のうち、李卓吾「忠義水滸伝叙」を読んでいきたいと思います。この文章には李卓吾の『水滸伝』観が大いに表れていますので、明代の白話小説批評の点からしても、非常に重要な資料であると言えます。…

論文紹介2:荒木達雄「『水滸伝』に見える「義」の解釈」(2)

前回に引き続き、荒木達雄「『水滸伝』に見える「義」の解釈」(『東京大学中国語中国文学研究室紀要』第13号、pp.22-48、2010-11)の内容を紹介していきます。 ○本論文の目次 1.問題の所在 2.「義」の表れる場面とその解釈 3.朱子学の「義」 4.陽明…

論文紹介2:荒木達雄「『水滸伝』に見える「義」の解釈」(1)

『水滸伝』には様々な版本が存在しています。それらの中には作品タイトルに「忠義」を冠したものがいくつもありますが、『水滸伝』における「忠」や「義」あるいは「忠義」とはそもそもどのようなことを指すのでしょうか。今回は『水滸伝』に見られる「義」…

論文紹介1:林雅清「『水滸傳』における「好漢」の概念」

前回までは初学者も比較的手に取りやすい『水滸伝』の関連図書を扱っていましたが、今回は『水滸伝』関連の論文を取り上げようと思います。 皆さんは『水滸伝』のどんなところに魅力を感じますか。その答えは様々だと思いますが、梁山泊の豪傑たちの豪快で爽…

初学者向け『水滸伝』関連図書2:佐竹靖彦『梁山泊 水滸伝・108人の豪傑たち』(5)

前回の続きです。今回も佐竹靖彦『梁山泊 水滸伝・108人の豪傑たち』(中公新書、1992)の第五章第五節「大豪傑への道」(pp.91-95)を読んでいきましょう。 宋江は、閻婆惜を殺して江州の牢獄に送られるが、ここで自分の反逆の志をのべた漢詩を作ってその素…