聚義録

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盛巽昌補証『水滸伝補証本(増訂版)』

 今回は盛巽昌補証『水滸伝補証本(増訂版)』(上海書店出版社、2019)という書籍を紹介します。

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 本書の内容を簡潔に言えば、『水滸伝』の内容について注釈を付け、その典故や関連事項を解説したものです。例えば、第一回の冒頭にはこのように注釈が付けられています。

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 黄霖氏は序文で、本書が有する価値として以下の4点を挙げています。

①本書は人物、故事、ひいては細部の事跡を掘り起こすものであり、それによって作者の創意工夫を味わうことができる。

②注釈の中には『水滸伝』作者の研究に関連するものがある。

③注釈の中には『水滸伝』版本の研究に資する材料となるものがある。

④注釈の中には『水滸伝』成書時期の考証に言及するものがある。

 

 ②③④はもちろん『水滸伝』の成立・発展過程を知るために非常に重要な指摘ですが、本書の一番の特徴は①にあると思います。『水滸伝』に登場する人物や個々のストーリーなどの中には元ネタがあるものも沢山ありますが、それを自分自身で探し出すのは決して容易なことではありません。例えば、第95回の張順の死に関する一連の描写は南宋末の軍人張順の戦死の記載(『宋史』巻450)が元ネタになっているもので、注釈では原典を引用しながら説明しています。他にも好漢たちの渾名についての解説、詩詞の典故、水滸戯との比較などなど、その言及は多岐に亘ります。このような情報を知ることで作品の奥深さを味わうことができるのみならず、研究をする上でも大変勉強になることばかりです。

 

 また本書は増訂版で、2010年に出た初版と比べて、注釈が100箇所増え、130箇所で補足・訂正されています(増訂版裏表紙参照)。「補証本」シリーズには同じく盛氏の手による『三国演義補証本』(初版2007、増訂版2018)もあり、三国志が好きな方にはこちらもオススメです。

 

ぴこ